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知財ニュース296号

台湾知的財産権ニュース(No.296)

発行:特許庁委託(公財)日本台湾交流協会
台湾知的財産権ニュース
(No.296)
発行年月日:2020年3月15日・31日合併号

主要ニュース目次

1. 智慧局ニュース
(2020年3月12日 智慧局ニュース要訳)
1-1 新型コロナウイルスに対する世界における臨床試験薬の台湾関連特許情報
(2020年3月20日 智慧局ニュース全訳)
1-2 商標登録出願の「ファストトラック審査」 5月1日より試行運用
2. 知的財産権紛争
(2020年3月24日 聯合報第B3面要訳)
2-1 日亜化学 IPF社に対する特許権侵害訴訟を提訴
3. その他一般
(2020年3月2日 聯合報第A11面要訳)
3-1 デジタル金融時代を迎え、昨年業者は200億台湾元超を投資
(2020年3月4日 関務署ニュース、3月10日 中央通信社電子ニュースの要訳)
3-2 宅急便受取人の個人情報照会サービスを開始
(2020年3月11日 関務署ニュース要訳)
3-3 台北税関 海外通販サイトの模倣品を押収

判例紹介
・商標権(真正品の並行輸入)最高法院108年度台上字第397號判決

1. 智慧局ニュース

(2020.03.12 智慧局ニュース要訳)
1-1 新型コロナウイルスに対する世界における臨床試験薬の台湾関連特許情報
www.tipo.gov.tw/tw/cp-85-873260-f17e4-1.html
新型コロナウイルス(COVID-19)感染が世界的に蔓延し、それに関連する診断・治療の研究開発が注目されている。
専利法第59条第1項第2号の規定により、発明特許権の効力は、研究又は実験を目的とする、発明を実施するに必要な行為には及ばないことから、実験室における実験行為は権利侵害には当たらず、主要な活性成分を有しないコア特許の薬物については、特許権侵害回避(デザイン・アラウンド)をした薬品研究開発の試行は可能である。
智慧局は米国臨床試験データベースのウェブサイトに登録されている新型コロナウイルス関連の臨床試験のデータをソースとし、新型コロナウイルスに対する臨床試験においての低分子医薬品及び高分子医薬品の状況、その台湾における関連主要特許情報等を各界の初歩的理解のために整理し提供する。

※新型コロナウイルスに対する国際的臨床試験薬の台湾関連特許情報については、上記リンク先の智慧局サイト「新冠肺炎國際上臨床試驗藥物之我國相關專利資訊」(中国語)を参照。
※各特許の詳細内容については、下記リンク先の智慧局サイト「中華民国専利資訊検索系統(Taiwan Patent Search System)」(中国語) twpat.tipo.gov.tw/ にて検索可能。

(2020.03.20 智慧局ニュース全訳)
1-2 商標登録出願の「ファストトラック審査」 5月1日より試行運用
www.tipo.gov.tw/tw/cp-85-873292-8eb88-1.html
出願人の電子出願の利用を奨励し商標登録出願審査を加速させるため、本局は「ファストトラック審査」を導入する。2020年5月1日以降に出願された商標登録出願について、下記のとおり、出願時に所定の方法で手数料を納付していること、及び、書類が所定の条件を満たす場合、通常の商標登録出願より2カ月早く最初の審査通知を行う。
(1) 電子出願:https://tiponet.tipo.gov.tw/TipoMenu/
(2) 一般商標登録出願で、非伝統商標登録出願、証明標章、団体標章、団体商標は含まれない。
(3) 使用を指定する商品又は役務名称の全てが本局の電子出願システム参考名称(https://twtmsearch.tipo.gov.tw/OS0/OS0303.jsp?l6=zh_TW)と完全に一致する。
(4) 支払い方法:
口座振替による納付、電子出願の支払い用紙をプリントアウトしての納付、電子出願支払い用紙のアカウントを利用し、ネットバンキングで出願手数料を納付 (tiponet.tipo.gov.tw/S080/actions/actionIHelp.do)
(5) 代理人に委任する場合、委任状を添付する。

上記条件を満たした商標登録出願は、方式審査事項がいずれも完備しているため、審査スケジュールを前倒しして行うことができ、現行のFA期間より約1.5カ月早く出願人に通知することができる見込みで、商標推進及びポートフォリオの事業運用を加速させることとなる。
例を挙げると、出願日が2020年5月1日のファストトラック案件は、2020年3月1日に出願された通常の商標登録出願と同じ審査開始時期になり、約2カ月前倒しとなる。しかし、注意すべき点は、ファストトラック案の商標についても規定に符合するか否か等、依然として「先願主義」を原則とし、先の出願は後の出願の登録を排除できる。
「ファストトラック審査」に符合する商標登録出願は、出願後約1カ月後に本局の「商標検索システム」において「快軌案(Fast Track)」と表記され、並びに案件スケジュールが表示される。

2. 知的財産権紛争

(2020.03.24 聯合報第B3面要訳)
2-1 日亜化学 IPF社に対する特許権侵害訴訟を提訴
日亜化学工業(以下、「日亜」と略称)は24日、自動車アフターマーケットの部品メーカーIPF社が日亜の特許権を侵害したとして、東京地方裁判所に訴訟を提起し、差し止め及び損害賠償を請求したと発表した。
日亜が上述の訴訟において主張しているのはLEDヘッドランプバルブ(製品型番:301HLB2)で、それには台湾LEDメーカーの隆達電子(Lextar)と共同開発したLED商品が搭載されている。日亜側は、当該LED商品は日本で取得したLEDパッケージ構造特許を侵害していると主張。
日亜はまた、上述の関連特許権に関する技術は高出力LED分野において重要な技術であり、日亜は台湾、米国、中国、ドイツ等11カ国においていずれも関連の特許権を保有していると示した。

3. その他一般

(2020.03.02 聯合報第A11面要訳)
3-1 デジタル金融時代を迎え、昨年業者は200億台湾元超を投資
金融監督管理委員会が台湾金融服務業聯合総会に依頼した調査によると、2019年に台湾の金融業がフィンテックの発展に投入した総経費は、合計219億台湾元(約787億円)で、2018年における実際の投入金額比86.9%増となったことが分かった。
このうち銀行業は142.9億台湾元(約513億円)と最も多く、次いで保険業の61.5億台湾元(約220億円)、証券・先物取引業の11.1億台湾元(約39.8億円)となった。
フィンテックの発展のため、金融業者とフィンテック業者とが協力する例も少なくなく、消息筋によると、ビッグデータと情報セキュリティ、AI(人工知能)、クラウドサービス、PAY、スマート理財等の異業種協力は台湾のフィンテックの応用と発展を更に繁栄させ多元化させるという。
このほか、金融業によるフィンテック特許の出願並びに登録査定がますます増えており、政府関係者によると2019年に登録査定されたフィンテック特許案件は1社平均1.68件で、2018年の1社平均1.12件を上回った。
また、金融業におけるフィンテック関連業務の職員数が総職員数に占める割合も確実に上昇しており、2019年は2.44%と2018年の2.31%を上回った。

(2020.03.04 関務署ニュース、03.10 中央通信社電子ニュースの要訳)
3-2 宅急便受取人の個人情報照会サービスを開始
www.mof.gov.tw/singlehtml/384fb3077bb349ea973e7fc6f13b6974?cntId=314c1f5622534d8bb7db8ff125b71041
財政部関務署は、実名ではない又は虚偽の受取人による国際宅急便の輸入を防止するため、国際宅急便受取人の実名認証制を4月16日から開始する。これは実名認証をしていない受取人の貨物は、初回は通関されるが、二回目からは通関されなくなるもので、3月16日~4月16日を準備期間とし、その期間は実名認証のない貨物も受け入れるが正式開始の4月16日以降は原則的に実名認証無しでは通関できないため、公式アプリ「EZ WAY易利委」をダウンロードしての認証登録が推奨される。
関務署によると、海外ネット取引には匿名性があるため、不法にこのやり方を利用し、台湾民衆の名義又は虚偽の受取人を騙り、海外ネットから詐欺、ドラッグ、又は輸入禁制品等を不法に購買する者がいた。これらの受取人の身分チェックのため「関港貿単一窓口サイト(https://portal.sw.nat.gov.tw/PPL/index)」に新たに「国際宅急便受取人の個人情報照会業務」を加え、通関業者は海外から貨物が発送される前に、受取人の個人情報の不正により貨物の通関に影響がでないよう、海外配送業者(例:海外オンラインショッピングプラットフォーム業者又は発送業者)から提供された受取人の個人情報を事前に照会できることとなる。
また、関務署によるとこのサービス推進により、通関業者による輸入宅配便の簡易申告の記入ミスを減少させる効果があり、業者の関連費用の節約にもつながるとしている。

(2020.03.11 関務署ニュース要訳)
3-3 台北税関 海外通販サイトの模倣品を押収
web.customs.gov.tw/News_Content.aspx?n=F55943A3BAA86A6A&sms=1095B63D0846032B&s=05C9805B45F53D73
台北税関は、本年1月から2月において国際物流特区の遠雄宅配便ゾーンで合計19案件、総数1,273個の模倣品を押収したと発表。この模倣品は小口分散化し輸入されたものであった。上述の模倣品は貨物チェックの際、包装が相当雑であるにもかかわらず、貨物の外側にはChanel、Adidas等の国際的に知名度の高いブランド名が書かれたカバン及びスポーツ衣料であったため、商標権利者に鑑定を通知した結果、確かに模倣品であると判明した。権利侵害額は約1,100万台湾元(約3,850万円)で、台北税関はすでに関連証拠を添え、検察・警察へ捜査を移行した。
台北税関はまた、商標法第97条規定により模倣品であると明らかに知りながら輸出又は輸入をした場合、1年以下の有期懲役、拘留又は5万台湾元(約17.5万円)以下の罰金に処する又は併処すると示し、民衆に海外通販サイトを利用する際の注意を喚起した。

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《判例紹介》      商標権(真正品の並行輸入)

事件番号;最高法院108年度台上字第397號判決 (判決日2020年1月16日)

概要;
米国で正規に販売された商品を台湾に輸入(いわゆる真正品の並行輸入)して販売することが、商標権の侵害に該当しないことを争った事例です。台湾商標法では、真正品の並行輸入は原則、商標権侵害に該当しません*1。本件は、米国の商標権者と台湾の商標権者が異なる場合に、台湾の商標権者が並行輸入業者に対して商標権を主張できるかが争点となりました。
知的財産法院*2の第1審、第2審は、台湾の商標権者が商標権を主張できるとの判決を下しました。
その上告審において最高法院は、原判決を破棄し知的財産法院に差し戻しました(商標権を主張できない)。

事案の詳細;
米国PHILIP SCOTT,INC.(以下P社)は、米国商標権「PHILIP B」の商標権者で、台湾紅創意有限公司(以下A社(台湾の商標権者))は、P社の同意を得て出願した台湾商標権「PHILIP B」の商標権者です。台湾哿鑫国際股份有限公司(以下B社(並行輸入業者))は、P社の正規ネットサイトから「PHILIP B」商品(真正品)を購入し台湾市場で販売しました。B社はA社を被告として『商標権不存在確認訴訟(商標権を主張できないことを裁判所に確認する訴訟)』を提訴しました。
知的財産法院は、第一審*3 、第二審*4とも商標権を主張できるとの判断を下し、以下のような意見を述べています。『台湾の商標権者A社は、P社による一回目の販売行為で何ら報酬を得ておらず、台湾商標法36条第2項の「商標権者」に該当せず、「権利消尽原則」は適用されない。』
この判断を不服としてB社が最高法院に上告したのが、本事件です。
最高法院は、B社の主張を認め、原判決を破棄し知的財産法院に差し戻すとともに、以下のような見解を述べました。『台湾は、商標法第36条第2項により商標権の国際消尽原則を採用する。商品が一旦国内外の市場で取引された場合、商標権者はもはや商標権を主張できない。商標権者は同じ模様を自ら又は他人に許諾して異なる国で商標登録できる。P社は米国で登録された「PHILIP B」の商標権者であり、A社が台湾で「PHILIP B」商標を出願することに同意している。本質的に排他的権利の発生源は同じ権利者に由来するため、異なる国の商標権者が相互に許諾または法的関係にある場合、商標権者から商品を購入した人は、台湾で登録した商標権者に対して権利消尽を主張できる(つまり、台湾の商標権者は商標権を主張できない)。』

解説;
1.真正品の並行輸入を認めるか否かは、メーカー、販売代理店及び消費者の立場により利害が対立します。特に、広告宣伝やブランド構築に投資する販売代理店からすれば、構築した信用にただ乗りする並行輸入業者を認めがたいものです。一方、消費者の視点では、低価格化を促す流通形態の多様化は、歓迎すべきところです。

2.台湾商標法第36条第2項には、「登録商標を付した商品が、商標権者又はその同意を得た者により国内外の市場で取引きされ流通する場合、商標権者は該商品について商標権を主張することができない。但し、商品が市場で流通した後、商品の変質、毀損が発生するのを防止するため、又はその他正当な事由がある場合はこの限りでない。」と規定されています。

3.本判例は台湾内外で商標権者が異なっていても、両者が許諾等の法的関係を有する場合、正規品に対して権利主張できないことを判示しました。

4.日本*5では「真正品の並行輸入」と商標権を扱った判例として、最高裁フレッドペリー商標事件判決*6 があります。その中で、下記の3要件を全て満たした場合に、「真正品の並行輸入」は商標権侵害にはあたらないと判示しました。
(1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,
(2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,
(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合。

5.同一の商標の商標権者が内外国で異なるケースについて、日本最高裁判決の上記(2)では、「法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係」まで広く認められるとしています。従って、今回のケースは日本でも同様な判断がなされると思われます。

注釈(*):
1.台湾商標法第36条第2項。
2.中国語名称;智慧財産法院。
3.智慧財産法院105年度民商訴字第14号判決(2016.8.12)。
4.智慧財産法院105年度民商上字第14号判決(2017.01.24)。
5.日本の商標法には、権利消尽に関する明文の規定はない。
6.最高裁平14(受)1100号事件判決(平15(2003)・2・27)。

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